コスモス街道  狩人

コスモス街道 
狩人

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「コスモス街道」は狩人の2枚目のシングルとして1977年8月に発売され、
オリコン最高5位、同100位内に22週で42.8万枚の売り上げを記録するヒットとなりました。

狩人は兄の加藤邦彦さん、弟の加藤高道さんで構成される男性デュオで、
1977年3月に「あずさ2号」でデビューし、オリコン最高4位まで上昇する
大ヒットとなりました。

日本では、狩人の出現以前に男性2人組が成功した例はほぼ皆無でしたし、
加藤兄弟の音楽的な素養も十分であったため、
作曲家の都倉俊一氏はその曲作りに大変力が入ったようです。

個人的には、ややコマーシャル的過ぎる「あずさ2号」よりも、
地味ながら凝った構成とサウンドを持つ「コスモス街道」に食指が動くんです(^^)

作詞は前作と同じ、竜真知子氏。
歌詞は「あずさ2号」同様のです・ます調で、その内容が似ている事も否めませんが、
より季節感と色彩感を濃く感じさせる仕上がりとなっています。

作曲・編曲も前作同様の都倉俊一氏。
氏は同時期に手がけていたピンク・レディーの大ブームで大忙しだったはずですが、そんな中でも「コスモス街道」のような充実した楽曲を生み出したところに
音楽家としての才能とプロ意識を見る思いがします。

大衆へのインパクトは「あずさ2号」の方が強かったと言えますが、
その大ヒットに気を良くした竜真知子・都倉俊一両氏が
狩人の実力をさらに知らしめるべく、持てる力を惜しまず投入して
「コスモス街道」を完成させた…と思える完成度です。

やや力が入り過ぎている感も否めませんが(^^;)

「コスモス街道」は構成としてはシンプルな2コーラスで、
各コーラスは A・B・C・D・E と、5種類ものパターンが整然と並んでいます:

Aメロ: ♪バスを降りれば…白いレストラン♪
Bメロ: ♪秋の避暑地で…目を伏せ歩きます♪
Cメロ: ♪コスモスの花は…覚えてますか♪
Dメロ: ♪愛されなくても…捨てずにいたかった♪
Eメロ: ♪右は越後へ行く…コスモスの道が♪

このように次から次へと違うメロディーが出てきて
ミニ・ミュージカルのような趣が感じられます。

「コスモス街道」では、歌メロにもオケにも16分音符が多く使われていますが、
全体のリズムは8ビートと解釈して差し支えないと思います。

「コスモス街道」はキーが B♭マイナーで、転調はありません。

この曲ではコード進行が大きな意味を持っているように思うので、
まずそれを書き出してみますね:

イントロ: (F7sus4・F7) B♭m・E♭m6・B♭m・Cm7-5・B♭m/D♭・E♭m6・Edim・F7・B♭m
Aメロ: B♭m・E♭m6・F7・B♭m
Bメロ: Cm7-5・B♭m/D♭・E♭m6・B♭m/F・F7・B♭m・E♭m6・B♭m/D♭・E♭m6・F7・B♭m
Cメロ: G♭M7・E♭m7・F7・B♭m G♭・E♭m6・F7sus4・F7
Dメロ: B♭m・D♭・E♭m・G♭ B♭m・D♭・E♭m・G♭
Eメロ: F7・G♭・F7sus4・F7・B♭m(…Cm7-5・B♭m/D♭・E♭m6・F7sus4・F7)
コーダ: B♭m・Cm7-5・B♭m/D♭・E♭m6・Edim・F7・B♭m

出来れば原曲を聴きながら読んで頂ければと思うのですが(^^;)、
特に注目すべきポイントが2つあります。

一つは、 Cm7-5・B♭m/D♭・E♭m6 の進行が、イントロ・Aメロ・Bメロ・
間奏・コーダの各所で使われている事。

このうち Cm7-5 と E♭m6 はベース音が違うだけで構成音は同じなので、
シックス系のコードが持つ哀愁のある響きを大切にしている事がうかがえ、
それは筒美京平氏の作風にも通じます。

また、その進行の前後を含めベース音が1ステップずつ上昇する
クリシェが、バロック音楽のような品の良さを作り出しています。

もう一つは Cメロのコード進行における、G♭M7 と G♭ の使い分けです。

まず ♪コスモスの花は 今でも咲いていますか♪ と寂しげに、話しかけるように
4和音であるメジャーセブンスのコードに乗ったメロディーで歌われ、
続いてストレートなトライアドである G♭ に乗せて ♪あの日の二人を…♪ と
強く訴えかけるように歌われるんですね。

そのような使い分けをしたのは歌詞が先に用意されていて、
その部分の内容に沿うためでは、と思われます。

歌メロではたった半音の違いなのですが、
非常に効果的、また繊細な音選びであると言えます。

全体を通して、ヴォーカルにハーモニーがつけられているのはそのCメロだけなのですが、
そこをきちんと歌いこなせないと続くサビが生きないので、
特に上のパートである高道さんは、その半音の歌い分けを含め、
声の表情や強弱などにとても神経を遣ったのでは、と思います。

ヴォーカルの音域は、下の D♭から上の G♭の1オクターブと4度で、
特に広いわけではありませんが、
歌心を伝えるテクニック、Cメロでのハーモニーなど、気軽に歌うためではなく
耳を傾けじっと聴くために作られたとおもわれます。

イントロはハープシコードチェンバロ)とピアノのユニゾンで始まります。
その両方とも完全に洋楽器なのですが、その響きに和風なものを感じるのが不思議です。

それらのユニゾンは歌メロに入ってからもオブリガード(合いの手)として
何ヶ所かで出てきますが、歌との絡み方は小柳ルミ子さんの「わたしの城下町」
などと似ていますね。


それら鍵盤楽器を中心に、木管楽器クラリネット金管楽器のブラス・セクション、
左右1本ずつのアコースティック・ギター、そしてストリングス…
と生楽器ばかりで構成された、豪華なオーケストラ・サウンドですね。


ストリングスは都倉氏のアレンジらしく、細かい動きが多用されていますが、
派手なかけ上がりはほとんど使われず、主張を持たせる事を極力避けて、
ひたすらオケ全体の音の厚みを増す働きに徹しているようです。


Dメロ・Eメロではブラス・セクションやストリングスと歌メロとが派手に掛け合っていて、
おとなしいイメージを持つこの曲に大きなメリハリを加えています。


リズムとインパクト重視のピンク・レディーの音作りに対して、
「コスモス街道」はメロディーやアレンジにより細かく演出する事ができる楽曲として、
都倉氏が入れ込んで作り上げたのが伝わって来るようです。

「コスモス街道」で使われている楽器とその定位は:

左: ピアノ アコースティック・ギター ストリングス(第1・第2バイオリン)

中央: ハープシコード ドラムス ベース クラリネット タンバリン

右: ストリングス(ビオラ、チェロ) アコースティック・ギター ブラス・セクション

ピアノは2オクターブ差のユニゾンでイントロや間奏、
オブリガード、そしてコーダ、で
ハープシコードと同じ旋律を弾いていて、
その他ではコードを補強するバッキングを行っています。
ややハイ上がりの音に加工してありますね。

アコースティック・ギターは左右に1本ずつ、ほぼ同じ演奏を同時に行っています。


ストリングスは左にバイオリン、右にビオラ・チェロと分かれており、
右が低音に偏らないようにとの配慮か、ブラス・セクションも同じ位置に定位させています。

都倉氏お得意のかけ上がりストリングスは Eメロの ♪…続いてる~♪ 直前の1拍だけですね(^^)

ブラス・セクションは3パートのトランペットで構成されているようですが、
一番低音のパートはトロンボーンかも知れません。

ドラムスのハイハットには、イントロと間奏のみフェイズ・シフターをかけて
シュワシュワ音を作り出しています。

全体的なサウンドは都倉俊一氏らしさを随所に感じるものですが、
厚い音のオーケストラでバックを固め、得難い男性デュオのコーラス効果を
前面に出して生かそうとするアレンジ、と言えそうです。

加藤兄弟は当時、「コスモス街道」のジャケ写のイメージとは違い
喧嘩ばかりしていたそうです(^^;)

しかし歌う時には、他人同士には真似ができないコンビネーションを発揮し、
それが狩人独特の安定したヴォーカルとなっていました。

今では兄弟別々に活動していて、2人揃ってテレビ番組に出演する時も
あずさ2号」しか聴けない事がほとんどですが、
「コスモス街道」「アメリカ橋」なども披露してもらいたいものです。

「コスモス街道」
作詞 : 竜真知子
作曲 : 都倉俊一
編曲 : 都倉俊一
レコード会社 : ワーナーパイオニア
初発売 : 1977年8月25日

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